本研究において我々は,姿勢制御とリズム制御を統合し歩行速度によって一つの制御手法から他の手法へと連続的に切替える能力を有した汎用的な脚式移動の制御器の基礎を提案し,その有効性をシミュレーションにより示す.
矢状(sagittal) 面内での各脚のリズム運動は,「遊脚相から支持脚相への遷移」と「支持脚相から遊脚相への遷移」をそれぞれ脚の「加負荷情報」と「除負荷情報」を用いて制御する単一の脚制御器によって生成される.2 脚支持期に現れる倒立振子運動により発生する前頭(frontal) 面内運動は対側の脚間での脚負荷の移動を生じさせるので,脚の加負荷・除負荷は前頭面内における姿勢情報も含んでいる.脚の加負荷・除負荷に基づく位相調整の結果として,各脚のリズム運動が得られ,脚制御器間の直接的な結合無しにもかかわらず脚間協調が発生し,低・中速での動歩行が実現可能となる.さらに我々は,提案した手法が横方向の摂動に対してある程度の抵抗能力を持つこと,しかし,前頭面内運動の振幅を減少させる摂動に対抗するためには同側脚間の上行性協調機構(ACM)の追加が必要であることを示す.
結果として,従来の脚式ロボットで広く用いられてきた前庭情報を用いた踏み出し反射無しでも,脚の加負荷・除負荷に基づく位相調整と同側脚間の上行性協調機構により,我々のこれまでの研究では実現されていなかった長い歩行周期での低速不整地歩行が実現可能となる.