特集「創発する多脚ロボットの歩容」・展望記事
「ロコモーション・パターン創発研究の現状と今後の展望」
日本ロボット学会誌, 第41巻3号, pp.217-222, 2023
・要旨 「歩容(gait)とは本来は時空間パターンを意味するので,歩容創発においてはリズム(時間パターン)と脚間位相差(空間パターン) 両者の自律生成・遷移を同時に扱うべきである. そもそもロコモーション・パターン創発で,時間と空間を分けることに意味は無い.運動のダイナミクスは脚負荷に顕著に現れるので, 環境との相互作用を議論するならば脚負荷(接触力)をしっかり見るべきである.」
・三言 「ネコ研究の歴史は 素晴らしい,そして,面白い.ロボティクスが,ロコモーション原理の解明を通して生物学に貢献することで, サイエンスの一翼を担って欲しい.若い研究者の今後の活躍に期待します.」
・記事内で引用した研究の動画と文献
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視床ネコのトレッドミル上・歩容遷移 by T.G. Brown (1939): 動画(.mp4 24M)
- T.G. Brown: ``Decerebrate Cat Movie (1939),'' The basal ganglia and brainstem locomotor control, at 16min. 35sec., E. Garcia-Rill eds., 1989.
- 文献
- A. Lundberg and C.G. Phillips: ``T. Graham Brown's film on locomotion in the decerebrate cat,'' J. Physiol., vol.231, no.2, pp.90--91, 1973.
- D.G. Stuart and H. Hultborn: ``Thomas Graham Brown (1882-1965), Anders Lundberg (1920-), and the neural control of stepping,'' Brain Res. Review, vol.59, no.1, pp.74--95, 2008.
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脊髄ネコのトレッドミル上・後二脚・歩容遷移 by S. Grillner (1980): 動画(.mp4)
- S. Grillner: ``Spinal Cat Movie (1980),'' The basal ganglia and brainstem locomotor control, at 1min. 31sec., E. Garcia-Rill eds., 1989.
- ベルト速度の上昇により胴体ピッチ運動が発生し(22sec),歩行か ら左右 逆位相・走行への歩容遷移が発現(24〜27sec.), そして,さらなるベルト速度の上昇により胴体ピッチ運動の振幅が増大し(28sec.〜),gallop相当の歩容を経て,左 右同位 相・走行(bound相当)への歩容遷移が発現した(46sec.)
- 文献
- H. Forssberg, S. Grillner and J. Halbertsma: ``The locomotion of the low spinal cat. I. Coordination within a hindlimb,'' Acta Physiol. Scand., vol.108, pp.269--281, 1980. [DOI:10.1111/j.1748-1716.1980.tb06533.x]
- H. Forssberg, S. Grillner, J. Halbertsma and S. Rossignol: ``The locomotion of the low spinal cat. II. Interlimb coordination,'' Acta Physiol. Scand., vol.108, pp.283--295, 1980. [doi:10.1111/j.1748-1716.1980.tb06534.x]
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脊髄ネコモデルを用いたトレッドミル上・後二脚・歩行-走行・歩容遷移シミュレーション
- ベルト速度を0.14(m/s)から0.30(m/s)に増加:左右逆位相走行遷 移 実 時間(.mp4),ス ロー(.mp4)
- 遷移後に,胴体ロール運動・振幅が少し小さくなり,胴体ピッチ・振動が発生し たことに注目
- ベルト速度を0.14(m/s)から0.42(m/s)に増加:左右同位相走行遷 移 実 時間(.mp4),ス ロー(.mp4)
- 遷移後に,リズム生成主体が,胴体ロール運動から胴 体ピッチ運動に完全に遷移したことに注目
- スロー動画を観ると,ベルト速度増加による脚負荷パターン変化のため,次のステップで直ちに同位相着地に遷移していることが分かる. ベルト速度0.39(m/s)の場合にはしばらく着地時・位相差が残り,腰伸展の効果により8ステップ目に同位相着地となる: スロー(.mp4).
- 同位相への歩容遷移については,今後,他の論文にて詳細を発表予定
- ベルト速度を0.14(m/s)から0.3(m/s),0.42(m/s),0.6(m/s)と段階的に増加: 段階的遷移 実時間(.mp4)
- 0.14(m/s):逆位相歩行,0.3(m/s):逆位相走行,0.42(m/s):同位相走行,0.6(m/s):同位相走行
- ベルト速度を0.14(m/s)から0.3(m/s),0.42(m/s)と増加,その後,0.3(m/s),0.14(m/s)と減少:可逆性 実 時間 (.mp4)
- 0.14(m/s):歩行,0.3(m/s):逆位相走行,0.42(m/s):同位相走行,0.3(m/s);逆位相走 行,0.14(m/s):歩行
- 自律歩容遷移を謳うならば可逆性を示す必要がある.現在は両方向の遷移は可逆 ではあるが遷移過程は非対称,この非対称性がヒステリシスの原因かどうかは現在考慮中...
- 動画の説明
- 後二脚モデルは「小鉄」の物理量を参考に して作成.
- 上記「脊髄ネコのトレッドミル上ロコモーション」を模擬するために,力学モデルを胴体上部で拘束.
- 前後&上下方向・並進:スプリング-ダンパで拘束,鉛直(Yaw)軸周りの回転:完全拘束.
- それ以外の3自由度(左右方向並進,ROLL&PITCH軸周り回転)はすべて自由(拘束なし).
- トレッドミル上歩行:トレッドミルはWEBOTSのTrackを用いてベルト速度を指定.
- 最初はベルト速度:0.14(m/s),ある時刻にベルト速度を増加した.
- 各動画の運動中に,ベルト速度以外のパラメータはすべて同一.同位相・走行の各動画では,ベルト速度以外のパラメータはすべて同一.従って,自律歩容遷移が発現したと言える.
- 左右逆位相の歩行・走行では,リズム生成器間ネットワークによる左右脚間協調は無く, 脚負荷情報のみで左右脚間協調は行われる.
- 左右逆位相から同位相への歩容遷移の詳細については,今後,論文にて詳細を発表予定.
関連する資料
- Orlovsky教科書:第10,11章の和 訳 by 木村
- G.N. Orlovsky, T.G. Deliagina and S. Grillner: Neural control of locomotion. Oxford Univ. Press NY, 1999.
おまけの動画:参考文献[17]
- 歩容遷移の創発例:柴犬 (1987,根津神社にて)
- 散歩する人の歩く速さに合わせて歩容が遷移します,「上位指令主導型」か「感覚フィードバック主導型」か不明.
- 非創発型歩容遷移:四足ロボット Collie-2(1987,三浦・下山研にて)
- ロール運動の折り返し点で歩容をtrotからpaceに切り替えています,ただそれだけ.